あすなろ法律事務所


Q.著名な歌舞伎役者が、自分の母親の自殺を幇助したことで逮捕されましたが、法律は、自殺についてどのように規定しているのですか。

A.
 自殺について、判例は「自殺者の自由な意思決定に基づいて自己の死の結果を生ぜしめるもの」と判示しています。
 自殺自体は罪ではありませんので、自殺に失敗しても自殺を試みた本人は処罰されることはありません。その理由は、人は肉体的苦痛と同様に精神的苦痛を感じる生き物で、その精神的苦痛から逃れたいとして自らが自らの自由意思に基づいて死を選ぶことは、当該本人のみが持つ「死ぬ権利」として、認められており、したがって、刑法的には違法性はないと考えられています。
 しかし、自殺は妥当な行為とは必ずしもいえないことから、自殺者の自殺行為に関与した者については、法が独自に@自殺関与罪、A同意殺人罪という規定を設けて処罰しています。@は、自殺を教唆(=唆した)若しくは幇助(=手助け)して自殺をさせた場合、Aは、「嘱託」(自殺者から懇願された場合)」を受け若しくは「承諾」(自ら死ぬことを望んだ場合)を得て殺した場合で、@は自殺行為を自殺者本人が行うのに対し、Aは、その生命を奪う行為を「嘱託」あるいは「承諾」を受けた他人が行なうことです。したがって、三島由紀夫事件のような切腹を介錯した場合は嘱託殺人となります。法定刑は、6月以上7年以下の懲役又は禁錮であり、殺人の場合の法定刑が、死刑、無期懲役、5年以上の懲役と比較すると刑は格段に軽くなっています。
 説例の事案は、自身に処方された睡眠薬を服用させ、向精神薬中毒にさせて、自殺を手助けしたと報道されています。例えば、高齢の親が認知症などで判断能力や自由な意思決定をする能力が衰えていた場合には、自殺の意味を理解する能力はないので、それは、自殺関与罪ではなく、殺人罪にあたります。つまり、4,5歳くらいの小さな子どもを残して死ねないと考えた親が、子どもを道連れにして自殺したような場合(いわゆる無理心中)は、たとえ、子供の承諾があったとしても、それは、同意殺人ではなく、立派な殺人罪であり、親が生き残れば、親の身勝手な考えで子どもの将来を奪ったとして「殺人罪」として処罰されます(なお、親も死んだ場合は、一応、「殺人罪」で検察庁に書類送検され、「被疑者死亡」ということで処理されます。)。
 日本の自殺者の数は、令和3年度は2万1007人、令和4年度は2万1881人で、令和5年度も5月末時点で既に9082人となっており、2万人を超えるのではないかと憂慮しています。自殺するには、それぞれ苦しい理由があると思いますが、かつて最高裁は「人の命は全地球より重い」と述べています。「死にたい」、「消えたい」、「生きることに疲れた」など、そんな気持ちになったときは、厚労省のホームページで「いのちSOS:電話番号0120−061−338」、「よりそいホットライン0120−279−338」等の相談する機関がありますから、そこに一度連絡を取ってみてください。専門の相談員が相談者の気持ちを受け止め、必要な支援策などを一緒に考えてくれるはずです。