あすなろ法律事務所
懲戒解雇と解雇予告手当について

Q.私は会社を経営していますが、A社員が集金した金を私的に使い込んだ事実が発覚し、懲戒解雇しようと考えています。この場合、普通解雇ではなく懲戒解雇ですから、即時解雇をして、「解雇予告手当」を支払わなくてもよいのでしょうか?


A.

 使用者が労働者を解雇する時は、少なくとも30日前に解雇の予告をしなければならないと定め、使用者が30日前に予告をしないときは、平均賃金の30日分以上を支払わなければならないと定めています(労働基準法20条1項)。これを「解雇予告手当」といい、労働者が突然の解雇から被る生活の困窮を緩和するための手当です。もっとも、同じ条文に「ただし・・労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合においては、この限りではない。」と規定してあることから、「労働者の責めに帰すべき事由」例えば、設問のように横領、窃盗、傷害等の犯罪行為をしたとか、2週間以上無断欠勤し、出勤の督促にも応じないとか等勤務態度が著しく不良で「懲戒解雇」にあたる場合は、「解雇予告手当」を支払わなくてもよいと思われがちです。
しかし、同じ条文の3項で労働基準監督署(条文では「行政官庁」という文言が使われています。)の認定を受けなければならないとの規定があります。この認定を「除外認定」といいます。つまり、労働基準監督署(以下、単に「監督署」と言います)から、懲戒解雇することに正当な理由があるとの認定を受けて、解雇予告手当を払わなくてもよいということになります。この「除外認定」の制度は、使用者側が一方的に懲戒事由の判断したのでは、労働者が不利益を被る場合があるとして、本当に懲戒事由があるかどうかを、監督署に判断してもらうための制度です。したがって、除外認定の手続きもしないで労働者を懲戒解雇し、解雇予告手当を支払わなかった場合、労働基準法違反となり、労働者から監督署に使用者が解雇予告手当を支払ってくれないという申告があった場合、監督署から手当を支払うよう指導がなされます。それでも支払わない場合は、罰則規定があり、6か月以下の懲役に処せられます。「除外認定」は、原則として解雇日までに受けておく必要がありますが、その申請には、相当程度資料の提出や監督署からの聴き取り調査などもあり、煩雑で日数がかかることから、「除外認定」を申請せず、解雇予告手当を払って懲戒解雇という即時解雇をするということもなされています。なお、就業規則に規程があれば、退職金の全部又は一部を支払う必要はありません。