あすなろ法律事務所
多重債務を抱えている従業員を解雇できるか

Q.会社の従業員の甲に、サラ金などの金融期間から再三支払い督促の電話がかかってきます。かなり借財をしているようで、このような多重債務を抱えている従業員を会社におくことは、お金に困って何をするか不安なので解雇したいと思っていますが、可能でしょうか。


A.
 借金が多いからといってそのことだけで業務遂行に問題があるということにはなりませんから、解雇はできません。また、従業員が自己破産した場合であっても、破産そのものは解雇理由にはかりません(民法631条の雇用契約では、使用者に、破産手続きの開始のあった場合は労働者から解約申し入れができるという規定がありますが、労働者の破産については、使用者から解約を申し入れる規定はありません)。しかし、借金が多いことで、仕事に集中できなくなって職務怠慢となり、その結果、ミスが多くなり、会社に損害を与えたり、会社の信用を害する弊害が出てきた場合など業務の遂行に問題があれば、職務怠慢を理由に懲戒処分、あるいは解雇も検討すべき場合があると思います。
 多重債務を抱えている従業員の解雇は難しいため、金銭を取り扱う部署での業務は不適当として「配転」(金銭を扱わない事務部門への配転など)することができるかについてですが、雇用する際に、職務(経理専門など)や勤務場所(経理部)を限定して採用した場合は(近年、職種を限定して採用する場合も多いので雇用契約書などを確認しておくことが必要です)、当該従業員の同意を得ることなく一方的に「配転」することができません。
 しかし、特段そのような限定がない場合は、配転の命令をすることは可能です。もっとも、当該従業員を退職させる目的などで、あえて、閑職のポストや従業員の適正に合わない場所に配転させることは、不当な目的のために「配転命令」をしたとして権利濫用により無効になります。
 配転する場合も、「業務の必要性」があるかどうかが重要で、その場合の必要性とは、業務の適正化、業務の能率増進、従業員の能力開発、会社運営の円滑化などの観点から判断されます。「業務の適正化」という観点からすれば、当該従業員をそのまま金銭を取り扱う部署で業務させることは不適切であると判断し、金銭を取り扱わない他の部署に配転することは適正であり、「業務の必要性」も認められると考えます。